その猫が僕を擦り抜ける時
エレベーターガール
ガコ ンッ
8階を示すランプが灯り、
重いドアが開く。
住人の一人と思わしき女が
サンダルの足を一歩進めだ。
「こんにちはー」
当たり前に挨拶を交わす。
気難しい沈黙。
「…にちは」
意味を成さない声が届く。
成立しない会話は終わる。
箱に乗り込むと、
鈍い音で下降を始めた。
都会の人は、何故か挨拶をしない。
東京に出て一番に気付いた。
挨拶を返さない奴は
薄気味悪いべったりとした膜が
喉に絡み付いているようで
その感覚はいつも
俺の喉にまで這い上がってきそうで
いつも少し不快だった。
小さな灯りは、
1階を示した。