蛙の腹
第7章 斑の蛙
電車の扉が開き、家路に向かう人の波が足早に流れていく。

家に帰って妻に「お帰りなさい」を言われるために。
家に帰ってはTVや映画でも見たり、勉強したりするんだろう。

駅前の人の流れに目を追いつつ煙草に火をつける。
夜空には星一つなく、黒さの欠けた空に鬱蒼とあがった月。

「まだ三十分はあるから、珈琲を飲みながら、六頁は本を読んめるな。」

月が建物の間から見え隠れして時々、大きく膨らんだ月が覗く。
豆腐や八百屋、焼き鳥屋、温泉といった庶民的な町並み。

結局、喫茶店は探せなかった。
かわりに駅前の果物やに並んでいる果物を見ながら時間を過ごす。
異常に膨らんだ桃の果実を見て、品定めもする必要もなく甘そうな果物が並んでいる。

「お待たせ、待ったでしょ。」

声のほうを向くと蓮沼さんがそこにいる。

はじめどんな顔だったかと思い、戸惑ったがあっちが声をかけてくるぐらいだから、この人が蓮沼さんだろうと思って言葉を返した。

「美味しそうな果物でしょ、どれも甘いよ。たぶん・・」

「最近、会社で果物いっぱい食べたから、当分いらない。」

「そんな会社なら、いいね。」
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