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カルテの中の彼女
数日後、秋の小雨パラつく
日にツアーが始まった。

今回は
名古屋、大阪、東京のみ。
それが終ったら俺は
しばし、休息。

俺の方のスケジュールが
押してる為、
その間シアには付き人以外の
仕事が待っていた。

シーグラス、春コレの撮影。

そして、
恩田氏による週一の
個人セラピー。
彼女も自分の事にようやく
前向きになってきた気がする。

ツアーに同行している坂巻には
どうしてもまだギクシャクする
らしく目に入れない様に
しているらしい。

マネージャーの傍に居てくれ
れば俺も安心していられたし、
ヤツも今回のツアー以降、
自分のレコーディングに入る
と云っていた。

今回さえ凌げば・・
後は時間が彼女を癒すだろう。



「お疲れ様!」


ツアー最終日を
東京で無事迎える事ができ、
その夜の打ち上げは
マネージャーが貸しきった
無国籍料理の店で行われてた。


「今日の所はオツカレさん。」

「ええ、お疲れ様でした。」


隣に座らせていたシアとも、
コーラとシャンパンで
グラスを合わせてる。

長いテーブルに座る俺達の
斜め前辺り、
坂巻はベースの男と談笑
しながら煙草をふかしてる。

妙なのは
彼女は俺の方に
体を少しだけ傾け、
俺はヤツばかり見てるんだ。

良く見ると・・
何だか少し痩せたみたいだ。

きっとシアが居なくなって
からまともにメシも
食ってないんじゃないか?

煙草を持つ手が
骨々しいって云うか。

相変わらず、よく飲み、吸う。
箸なんかたまにしか使わない。

酒飲み特有の、
悪い酒の飲み方だ。


「ちょっと、席外しますね。」

「ああ。場所、解る?」


頷いてイスから立つと、
彼女はトイレに向う。

酒が進んで来て皆それぞれ、
グラス片手に席を移動し
始めていた時だった。

他のメンバーが子供騙しな
遊びを俺に仕掛けて来たので
ついムキになっていた。


( 遅いな、貸切なのに? )


隣を見てからふと、さっき
まで向こうに居た坂巻も
いない事に気付いたんだ。



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