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「シア_____」


「・・はい」


「お前はさ・・俺が知る限り
一番マトモで
一番純粋な女だよ。
生まれて来るトコ、
間違ったんじゃねえかって
思うぐらいにな。」


「ぅ・・!」


「だから、自分に自信持て。
いつも・・
ちゃんと見ててやるから。」


「っん、く・・はい」


「もう泣くな・・ジュード君に
あんま心配掛けんなよ、な・・?」



坂巻の・・
シアへの接し方はまるで
優しいもので・・

腕の中、子供みたいに
嗚咽を堪えてる彼女の額に
キスを落としていた。

背中を軽く叩き、
切なくやりきれない顔で
溜息を大きく漏らしている。



「ほら・・戻る前に、少し
外で目の辺り乾かして来い。」

「___ ええ」



やっと、
落ち着いたシアが
エレベーターに乗る。

少しの笑みで送ってやると
金田一みたいに長目の襟足を
ガリガリと掻き毟り踵を返す。


木製の縁台みたいなのに
腰掛け、また
煙草を吸おうと・・
空箱を掌で潰してた。


「これでよければ」

「! ・・ああ、ありがと。」


後からの声に驚いてた彼に
一本取らせると
自分もそれに火を着け、
隣に腰を降ろした。

暫く黙って外の景色を
見ていた彼が
やっと口を開いたんだ・・。


「PTSDって云うんだってな。
最初の頃、知り合いに彼女を
診て貰ってそう云われたよ。
重症だって・・さ。」



機能不全家族、
心理的虐待の末、
実の母親による傷害。

恩田から、カルテには
そう書かれていると聞いてた。



「それが
理由じゃないでしょう」



彼は声を出さず、前を
見たまま軽く二度頷いてる。


彼女をレンタルしていたのは
引き取り手のない"犬"の
里親を探す、"お試し"の様な
ものではなかったのか。

俺はそう
考えるようになっていたのだ。


「・・好きな女が出来たからさ」

「それも違うな」


即答した俺に、
彼は動揺も見せはしない。



「あの女を
ハラませちまったんだ。」




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