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キツく頭をぶつけた時に
星が散ると云うのは本当である。

頭を押さえている暇もなく、
胸ぐらを掴んで揺らし始めた。


「早くしろッ・・!」


頭を痛さに顔を顰めながら、
のろのろと起き上がり、
自分のバッグから
通帳をその手に渡した。


「ほ・・・う。」



わざわざ財布の中身を開けて
見せ、九千円も抜いて手渡す。
どうせ現金も欲しがるだろう。



「貯め込んだもんだ・・。
この判子はあるんだろうな?」

「ええ、ほら。ここに・・。」


「あ・・! 何を!!」



手にあった判子を目の前で
パッと口の中に入れ、ゴクリ。



「出せ! 畜生!!」



切羽詰った男は必死の形相で
私の口の中を指でこじ開けた。

指で喉から鎖骨下を指して
通過しているであろう場所を
示すとかなり逆上し出した。


「その九千円は
お金は出せないと云った、
私からのせめてもの気持ちです。」

「バカにしやがって・・!!」



バシッ! バシッ!


馬乗りになり、私の頬を打ち
始めた。それに疲れると今度は、
わあわあ泣き始めるのだ。



「今の奥さんも子供もまた・・
置き去りにして不幸な家族だけ
残して行く。ねえ、宮田さん。
バカにしてるのはどっちです?」


「・・・煩いッッ、黙れ!!!」


「母は、貴方を愛してた。
貴方に振り向いて欲しかった。」


「黙れと云ったろ!!」


「なぜ・・私が、結城を
名乗っているか解りますか?」



馬乗りしながら胸ぐらを掴み、
何度も揺らし続けていた手が
その時、ピタリと止まった。

知りたいと思ったのだろうか?
そんなくだらない事を・・?



「余りに哀れだったからですよ、
たった・・それだけです・・。」



若い女と歩いているのを
見たと云っては酒に溺れ、
私に当たり散らす母は
本当に哀れな人だった。




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