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この先に"淵"があると言う。
入り口と出口は別なのだ。

どこを見てもモヤが掛かって
先が良く見えない。

落下恐怖症の私はそこから
飛び降りる自信がない。

もう直ぐだと云われると、
凄く緊張して彼の手を握り返す。


「ここだ」

「・・・?」


見た所、何もない。
彼が言うにはあと二歩先らしい。

両肩を掴み、
自分の方に向かせると
死神の咳払いが聞こえた。


「いいか? お前が思ってるほど
ジュード君は軽い人間じゃない。
そうだな・・俺と同じぐらい、
シアの事を愛してくれている。」

「・・・ええ。」

「・・いっぱい愛して貰え。」

「~~~。」

「・・泣くなよ。」



私は彼のマントを握り締め、
口を噤んでる。

今、言葉を出すと
絶対泣いてしまう。だから。

少し落ち着いてから
上向きになり・・唇の力を抜いた。



「虫が入っちまうぞ。」

「虫なんて居ないです。」

「あァ・・ゴメン、
死神はキス出来ないんだ。」



そう云われても私は諦めずに
彼をジッと見上げると目を瞑る。




「そんなに冷たい人でしたか?」

「体温はたぶんナイから。」

「そうじゃなくて・・!
帰っちゃうんですよ? なぜ?」

「俺もよくは知らねえんだが、
兎に角、やっちゃならねえんだと。」




確かに彼はあの世じゃまだ
新参者である。

そして死神になったのも今日、
初めて順番が回って来たらしい。

だが、
粘った甲斐があった・・。

彼は大きな溜息の後、屈んで
仮面を少しずらしてくれたのだ。




「ったく、お前にゃ敵わねえな。
神様には黙っとけよ・・?」




そう小声で悪戯っぽく云ったと
思ったら、たっぷり唇を奪った。



・・・違う、

ホントは彼もしたかったんだ。






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