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すべて消えそうな錯覚
マスコミ、ファン、野次馬。
人は良くも悪くも騒ぎ立て、
彼女の退院の日は大変だった。
"酷くショックを受けている"
そう理由を付け、事務所側も
記者会見やその類の取材には
一切本人を関わらせなかった。
義理の父に
絞殺され掛かったんだ、
そう云われれば誰もが
納得せざるを得ない。
実の母親との事を知る俺達の
様な身内なら尚更だった。
事情を説明した上で
職員用のパーキングから
ひっそりと退院して来たんだ。
「まだ寒い?」
「ええ」
運転していた恩田さんが
車のヒーターを
入れてくれていたが、
病院から借りた毛布を被って
それでもまだ震えてる。
おとついに目覚めたのだが
原因不明の低体温で
体温が31から33℃の間を
彷徨ってなかなか上がらず、
ずっと安静にしていた。
その甲斐あって35℃にまで
回復、何処にも異常はなく、
何とか退院してこれた。
「本当に明日、
沖縄に行くつもりなの?」
「・・行きます。絶対に。」
「でもね、シアさん。せめて
36℃以上体温が上がらないと。」
専務は自社の仕事だから
延ばす事が出来ると云ってた。
「今日の様子を見ましょ?」
ね? 信号待ちで振り向いた
専務にも首を縦に振らない。
アナを開けたくない気持ちも
あったのだろうが、
彼女が些細な抵抗を見せるの
にはもう1つワケがあった。
「もしかして、
まだ怒ってンの・・?」