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監督の口から
次の言葉が出るのを恐れてた。

"あさぎ"と云う少女の役は
誰もが
演じきれるものじゃない・・。

台本を見る限り、
台詞が一言も無いのだ。



「君にしか出来ない。」

「待って下さい・・私、
演技とかって経験ないです。」

「やる気になんなさいよ。」

「・・・・・・。」



飄々とアッサリ云ってくれる
ので呆気に取られてしまう。


「お待たせしました」


ウェイトレスの声に会釈する。

監督に"食べなさい"と促され、
ドラゴンフルーツの大きな飾り
から手にとってガブリと一口。


「甘い・・美味しいです。」


ちょっと意外な美味しさである。
私が顔をあげるとニコ、と笑い
煙草にやっと火をつけた。


「それ以上ヤセないでくれ、
イメージに合わなくなる。
まあ・・いろいろあったんだな。」

「・・・・ええ。」


こっちに来て
煩く言う人もいないお陰か、
食欲がない時は
オヤツさえ食べない。

監督と会った撮影の時は、
割とまだふっくらしてたと思う。

彼も・・最近の私の話を
ちゃんと知っているらしかった。



「運命的なものを感じるねぇ。」

「・・・え?」

「私はこの島の出身なんだよ。
しかも、今日はね
"島尻パーントゥ"の日だ。」

「パーントゥ??」



だから詳しいんだ。
監督はこの島の
いろんな事を教えてくれた。

"島尻パーントゥ"は国の
重要無形文化財厄払いの行事で、
なまはげの様な格好をした
3体のパーントゥが新築の家や
子供が誕生した家を廻り、
人や家などに聖地の井戸の泥を
着けて練り歩くお祭り。

道理でコテージの他の客が
いつもよりソワソワしてる訳だ。

コテージで篭ってる事が
多いから全く知らなかった。



「ミヤコ・マモル君にはもう
会ったかい? 道端に居たろ?」

「どちら様?」

「白い顔の、
口の真っ赤なお巡りさん。」



つい笑った。あの人形のコトだ。
まさか名前まであったとは。

急に真顔になった監督は、
煙草を押し潰さない様に消す。




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