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「ナンで帰っちゃうんです?
上がって暖かいものでも。」

「ホントごめんッ。
まだ収録残ってんだ・・。
じゃ・・、またね。元気で。」

「・・ええ、じゃ、また。」


仕事なら仕方ない。
那須さんの好きなカステラを
渡して、ハグをして。

彼とは
スケジュール的に今回はこれが
日本で会える最終日になるから。

もしかして気を使わせた?


「那須もね?
最近、仕事増えたって・・。」


ドアを閉めてから彼が後から
抱きついてそう云った。

複雑な気分。
でも最近はCMにも出てるらしい。



「何て言うか・・。」


「結果良ければ全て良し・・
でも! もうこんな事だけは
二度と・・、絶対しないで。」


涼しげな
ブルーグレイの瞳が曇り、

険しく、悲しい顔で
私の目を覗き込んだ。

無茶だったと反省はしている。
だけど・・いや。

もうこんな事が
起こらない事を願いつつ

・・嘘をつかせて下さいね。



「ごめんなさい。
もうしませんから。」


「あぁ、・・・。」



"・・・良かった"
そんな意味の溜息を聞いた。

私が今、向きを変え
出来るだけ上の方に手を伸ばして
ギュッと抱きついたのは

"本当に・・
貴方が無事で良かった"

そんな気持ちの表れ・・。


「ぶら下がりたいの? それとも
"高い高ーい!"の、オネダリ?」

「ふふっ・・、ヒドイ。」


人をおサルか、子供みたいに。

あ・・降りてくる彼の顔が。
まだキスだけですよ・・?


♪~♪~♪~



「「 ・・・! 」」



彼の胸ポケから携帯の着信音。

彼の息を感じる距離でピタ!
と、止まったのが解る。

もう目を瞑っちゃってるのに・・

こう云う時って
凄くバカみたいで恥かしい。


「・・・ねえ? 」

「はい」

「俺としては・・
先にキスしたいンだけど。」


ぱち!と、目を開けると
彼の方はまだ目を閉じていて
ギリギリの所で
唇をプルプルしてる最中だった。

プッ!

私も笑うのを堪え、
少しだけ背伸びで・・距離を縮めた。


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