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厄日



本番まであと2時間・・・。

週のうち何度か会う
音楽バラエティ共演者達も
何人か来てた。

サウンド・リハの合間。

前室で退屈になったのか、
この間から気になって
しょうがなかったらしいシアに
とうとう
ちょっかいを出し始めた。



「美味しい、チーズ・ケーキ
貰たからお兄ちゃんと一緒に
食べよっか。」

「手を引こうとするな、手を。」

「それは反則だろ」



"ダレが最初にナツかせるか"
なんて、
遊びを誰が考えたんだ?

いくらチッサイからって
あれじゃ丸きり子供扱いだ。

ナツかせると云うより、
餌付けに近い。

大体が
食べ物で釣ろうとしてる。

悪いオトナの見本達は
俺の傍に居る彼女の目の前に
しゃがみ込み、
目線を合わそうと必死だ。


「仕事中なので」


視線を外しながらの
困った顔で答えるシアには
俺も吹き出して笑った。

そんな反応が面白くて揶揄いの
いい対象になっていた。


「おはようございます♪」


化粧がグラマラスな少し前の
歌姫は、入って来た時の
その挨拶だけはニコやかだ。

俺達も挨拶だけ笑って返し、
また内輪で談笑し始める。

どうやら云わないだけで皆、
彼女が苦手らしい。

会話に入る術が
見つからないと手鏡で自らの
メイクをチェックをし始めた。


「おはようございます。」


その内、ウチのバンド連中が
俺に顔を見せに来る。
その中には
少し遅れて坂巻も入ってきた。


「宜しくお願いします。」


サングラスの奥から
チラリとシアを見遣った。
軽く会釈で済ませている。

今朝、俺が言った事で・・
寂しそうな
その視線を下へ向けたのか。

子供じみてるとは思う。
だが、俺はいつも
イイ気分で仕事がしたい。

些細な事でテンション、
サゲサゲはゴメンだ。


"俺との契約の間、
ヤツと関わらないでくれ"

だから・・そう云った。



いいんだ、
"小ッサイ男"と呼ばれても。

俺達の間にそんな約束ごとが
あるとは知らず、
ヤツは
喫煙出来る場所で此方を見てた。





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