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ダメだ、
こんな所で泣いたりしちゃ。
堪えなきゃ、余計に
笑わせてしまう事になる・・。
瞬時にそう思って立ち上がり、
渡されたお皿やらを
カウンターに置きに行った。
丁度、音楽が途切れた瞬間
パンッ・・!
乾いた、
小気味いい音に振り返る。
「彼女に謝れ・・!」
目を見開いて頬を押さえている
のはさっきのチャラけた女の人。
「そーだよ、
無神経すぎやしない?」
「KYにも
ホドがあるんじゃね?」
皆口々に、
"無神経"だとか"KY"だとか。
近くに居た人達もその話題に
触れない様にしてたのか、
一斉に彼女を攻撃しだした。
「いいんです、もう本当に。
呼んで下さって・・有難う。」
これ以上、
気を使わせる訳にはいかない。
ぺこっと頭を下げてから
足早に玄関へ。
靴もいい加減に履いて
直ぐドアを閉めようとした。
すると後を追ってきた熊谷が
ドアに手を挟んだのだ。
「待って、シアちゃん・・!」
「嫌なムードにして・・
本当にごめんなさい。」
私は仕方なくドアを開け、
ポーチに直に腰を降ろす。
どうしてこんな
弱くなっちゃったんだろ・・
なんでかな?
坂巻さんが居なくなってから、
めっきり弱くなってしまった。
両手で顔を覆ったら、
隣に座った
熊谷の腕が肩を抱いたら、
我慢していた涙が
後から後から、
ボロボロ溢れてきて・・。
「主役でしょ・・?
もう平気・・戻って・・。」
「放っとけよ、いいって。」
抱いた肩を軽く揺らしてから
抱きしめ直してくれる。
抵抗することもなく、背中を
摩られ、彼のトレーナーに
軽く押し付けられていた。
坂巻ともジュードとも違う、
爽やかだけど甘みのある
グリーンノートのトワレの香り。
その香水が女物であるのに気が
付いた時・・やっと涙が止まる。
「・・いい匂い・・、
彼女の・・移り香?」
「"ミッドナイト・プワゾン"?
残念・・俺のお気に入り・・。」
借りていた胸から離れると
覗き込んだ顔が、彼の目が、
私を捕らえて・・引き寄せていた・・。