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それは優しい嘘だったのか、
酷な嘘になったのか・・。

"愛してる"と
云って欲しいと強請られて、
云ったと言うなら奴は
自分にこそ嘘をついている。

そしてシアも誤解してた。

病んでる私を
手放すのが怖いだけ?
だったら人には貸さない。

だが、アイツは明らかに、
貸し出しする
相手も選んでいた。

俺にはヤツが
彼女から離れていくのを
待っているとしか思えない。

坂巻自身、それで踏ん切りを
着けようとしてる様にも
取れるのだ。

俺が奴の事を言うのも何だが、
ヒネ過ぎてて理解に苦しむ。



「シアは普通の女の子だよ。
尽くしちゃうんだね。
俺も同じかな・・でも、
ダメになるんだ。」

「・・・どうしてです?」

「そうするとさ、同等に
見てくれなくなるんだよね。
その挙句に利用だけされて?
・・嫌になる。」



芸能界にいりゃあ、
売れるほど小悪い奴らが
近寄ってくるなんて事もある。

私生活をいろんな形で
切り売りされたり
売名行為に近い事も
しょっちゅうだ。



「甘える事が許されると
一度学習したら猿だって
ダメにちっちまうもんだよ。」

「さ・・猿? 
そんなに賢い訳・・。」

「猿をバカにしちゃいけない、
大阪の猿は自分で自販機から
ジュースを買うらしいよ。」

「本当に・・?
ふふ、絶対ウソ。」

「ウソじゃない、
有名な話だって。」



シアが声を出して笑う。

抱いたままの、
揺れた体を少し離すと
顔を見降ろした俺の目を見て
つられて真顔に戻っていった。


「・・嘘でもいいからなんて
言わない。俺の事も愛してよ。
でなきゃ寂しい。」



何か言おうとした口の動きが
困っているんだ・・と、
俺に伝えそうだったので

咄嗟に小さな彼女の頭を
自分の胸に押し付け、
ギュウと
背中ごと抱きしめていた。


「愛してくれるだけでいい、
返事なんて要らないから。」


俺のシャツを小さな手に
握り締めて・・

柔らかな頬を摺り寄せる
この暖かさには
切ない吐息が混じってる。


それだけで
十分解ってるから・・。




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