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「ただいま~、おっと!
オハヨー・・シーちゃん??」
「お疲れ様です。
・・・行ってきます。」
朝帰って来た那須と
玄関ですれ違う。
様子の違う彼女に
べースのケースを肩から
落としそうになりながら
黙って手を振って
後姿を見送ってた。
「お帰り。
・・彼女、緊張してるんだよ、
気にするな。じゃあね・・。」
那須の肩を叩き、
しなくても良かった
フォローをしてしまう。
俺が出てきた後、
ドアを閉めたのは彼女だ。
今朝、
彼女が口を開いたのは
「おはようございます」
「有難うございます。」
「そろそろ時間です」
その三言だけだ・・。
そして、
まるで顔の筋肉を使わない。
夕べのサクヤの言葉で、俺は
彼女が茫然自失になって
起きて来ないんじゃないかと
心配もしたけど、
昨日だいぶ泣いたせいで
冷やしてあった、
使用済みの紅茶のパッグを
両目に当てながら先に座って
いたからホッとしたんだ。
彼女は仕事を忘れてはいない。
よりによって今日は
彼女を使ってのCM撮りがある。
シアのポスターが
話題になったのを機に、
あの会社の中、
イマイチぱっとしなかった
ブランド名を
押し上げる気になったらしい。
「その顔じゃマズイな、
こっち向いて。」
紅茶を洗い流していた洗面台
の前で彼女の腫れた瞼に
"痔の薬"を擦り込んでやる。
勿論、この為にだけ買って
用意してあるものだ。
スーパーモデルなんかが
よく使う手だが
あまりおススメはしない。
「腫れが引いたら目に
入れない様にまずコットンで
拭き取るんだよ。」
若いから
腫れが引くのも早いのか、
家を出る頃にはいつもの顔に
戻っている。
プロ意識が足らない・・
とは誰も叱れない。
彼女の本業は付き人だ。
それに今回は
事務所側の配慮の無さを
責めるべきだろう。確かに
事を急き過ぎた感はあった。
今のところ、
俺絡みの仕事だからまだいい。
こうして撮影にも
立ち合う事ができる。
だが・・俺にも
彼女、単独の仕事が
できるとはとても思えない。