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イラだちを覚えるのは
大事なものを横取りされる
気分だからだ。

白状すれば俺も
少々焦っていた。

だから
社長の腹積もりを聞いた時は
事務所を利用する事を
考えたりもした。

ヤツに彼女を返却しなくても
済む様に、だ。

先走った社長の頭の中では
とっくにシアを使った絵が
描けているんだろう。


「お早うございます」


今日マネージャーは身内の
不幸があり、帰郷していた。


俺達二人でスタジオに入ると
見慣れない者達がいる。

彼女が準備に入った直ぐ後で
会社側の担当が
取り巻きの着いた老人を
俺に紹介した。



「会長の海草晴臣氏です」



名刺を頂いたが、
まさか会長までお出ましとは。

ウミグサ・・
それで社名がシーグラス?
なるほど、
タイヤの石橋さんみたいだ。



「芸能界で汚すのは惜しい。」

「え?」



俺の隣の老人は一人だ。
いつの間にか
人払いをしたらしい。

気が付けば、二人だけで
撮影風景を眺めていた。



「まだ本人と話しておらんの
だが、あんたからワシを紹介
して貰えんか?」

「それは・・喜んで。」

「ありがたい。ふふ、あんな
孫がワシにもおったらええのに。」



ふさふさの眉毛を
時折動かして老人は笑う。

どうして眉毛だけなんだ?
仙人みたいな頭に毛髪は
一切残ってない。

御歳は78歳。
腰は多少曲がってはいるが
口も足元もまだ達者である。


「シア」


撮影を無事終えてすぐ、
老人を紹介した。


「こんにちは」


ん?  会長の様子がおかしい。

挨拶をしたシアも、
担当者や
取り巻き達もジーっと見てる。

老人はなぜか両手を
突き出したまま動作を止めた。


「シ・・、」

「?」


衣装のままのシアが思わず
彼を見上げ、条件反射の様に
その両手を取る。

お年寄りだけに俺でも
そうするだろう。



「お加減でも・・?」

「"シーちゃん"と呼んでも
エエかい?」


・・タメるなよ!
川を渡っちまったかと思った。




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