+ missing-link +
その様子は・・

無表情なままに言葉を話す
ビスク・ドールの壊れた
再生機能、
彼女にはありえない
マシンガン並みの
ブツブツ呟く様な早台詞。

悪霊に憑かれたかにも見えた。

初めて見る光景、
恐ろしさに切羽詰った俺は
彼女の頬を平手で
叩いてしまっていた。



「お客様・・。」



驚いたのは彼女だけじゃない。
殴った俺もだ。

客室乗務員が
窓際の俺を心配そうに見てる。

もう離陸して暫く経っていた。
このぐらいの騒ぎで
留めておかなければ。


「大丈夫・・、痴話喧嘩
だから。もう、シートベルト外していい?」


頬を押さえながら瞬きもせず、
ホロホロと涙を落とす彼女を顎で指した。


「早く・・、
抱きしめてやんないと。」


真面目な顔で云い除け、
シアを一瞬キッ!と見てから
呆れた笑いに変えていた。


「少々お待ちを。」


客室乗務員はハッと我に返り、慌てて
彼女のシートベルトを外してくれた。


「お騒がせして悪かったね」


お手拭を受け取り、
目配せしながら軽く微笑む。


「とんでもございません。
また何かありましたらご遠慮なく
お申し付け下さいませ。」


頬を赤らめながらの一礼。

丁寧な言葉を残し、そそくさ
急ぎ、その場を去るのだ。


「ほら・・、」


零れっ放しの涙をお手拭で
拭いて頬を指で摩ってやる。


「・・シア? お前は何も
いけなくなんかない。ずっと・・
そうやって悩んでたの?」

坂巻への気持ちと、
母親の事を最後に口走った。
ヤツは彼女のヤミを知って
いたのか。

悪いのはシアの周りに居る
俺を含めた大人達だ・・。

事務所が考える利益の事や、
俺の独占欲はお前には関係ない。

ただ、アイツの
"傍に居たかった"だけなのに。

救世主気取りの俺のおごりが、
彼女の望む
シアなりの幸せを奪った・・。


シア・・。

俺を恨んでる・・?


< 68 / 332 >

この作品をシェア

pagetop