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新しいCMとかPVなどが
TVで流れ出すとお世辞でも
"あれ、イイネ!"
挨拶代わりに声を掛けられる。
俺はそれにアリガトウと
平気で返すが、
シアの場合、
言葉の壁に押し潰されるが如く
両肩がギュウと内側に
曲がっちまってる。
そして呟くような、
南無阿弥陀仏の様な、
"有難うございます、
有難うございます"
しかも、もう
顔は破裂しそうに真っ赤だ。
一度、セラピーに連れて行った
方がいいかもな。対人恐怖症の
治療もあるって聞くし・・。
「シア、
首の後ろ揉んでくれない?」
「ええ。」
そうだ。彼女のコトで夕べ、
真面目な話し過ぎたモンだから
どうも筋肉の緊張具合が
気になってた。
ふと、マッサージして貰う
のに顔を上げる。
「何?」
さっきまで携帯で話してた
マネージャーが屈んで、
俺に耳打ちしてきたんだ。
「シーグラスの会長が、
シアちゃんを
他のCMにも起用したいって。」
さてはもう見たか。
さすが、老いぼれの朝は早い。
前もって大体の所は見せて
貰っていたから心配はしてた。
CMのシアは震えがきそうな位、
美しく撮れていた。
不思議なもんだ。
一旦撮影が始まると彼女は
ちゃんとイメージを作る。
何て云うかこう・・
"入って"しまうんだ。
大阪の生放送ではまるで
マネキンみたいだったのに。
( しかも終わった後までだ )
ご指名なら他の子を
あてがい様もない。
社長も困っているだろうな。
「ザマアミロ。」
・・ボソッ。
「え? 何か云った?」
「ううん。で、
断ったんでしょ?」
勿論、意地悪で聞いたんだ。
彼が小さく首を振ったので
"フウン?"と。
「リハーサル、入りマース!」
「・・さ、行って来よ。シア、
お手洗いなら今のうちにね。」
解りきった事をわざと云い、
俺はこっそり彼女の手に
二千円札を握らせた。
"喫茶室でも行っておいで"と、
サングラスをずらして
ウィンクだ。
この男に、
俺の居ない所で勝手に
彼女をクドいて貰っちゃ困るから。