鎌倉物語
 

 投稿された絵は一枚ずつ各審査員を経由し、順番に評価を付ける。横浜の港をクレパスで力強く描いた小学生の子もいれば、箱根仙石原のススキを繊細に描いた年寄りもいた。描かれる風景も何も名所ばかりでは無く、私鉄沿線のなんとない景色を描いたものも多数あり、私の馴染みの景色が出て来たりすると妙に嬉しくなった。

 不思議なもので数百枚もの絵を見ていく内に、何が巧いとか、どの様な工夫があるだとか、そういった審美の感覚が、まるで素人の私にも芽生えてきた。けれどもこれが美術館の数百枚の絵では、違う。圧倒的な芸術の前でに立たされると親しみが消え、絵と「私」の間には距離が出来てしまう。それはあたかも上下関係の様であり、美は必然として次々と権威的に現れる。私は素人の絵の方が楽しかったし、何より批評するに際して意欲的になれた。



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