鎌倉物語
 


「四宮さんは何か印象的な絵はありましたか?」

私が同じ絵を数十分に渡って見ていたところ、隣に座っていた画家の先生に話し掛けられた。

「私はこの絵が好きですね」

「これは……江の島電鉄沿いですかね?」

「はい。鎌倉海岸です」

「若さ溢れますね」

氏は淡々と続けた。

「横長のキャンバスにアクリル絵の具で描かれた、青、碧、蒼、…そして波の白と、砂浜のベージュ。色は互いに混じる事を牽制仕合い、そして互いを引き立てています。未熟な点は多いですが、学生であることを考えれば秀逸ですよ」

「……ほう」

私にはそこまで細かい事はわからなかったが、専門家がみても立派な絵らしい。

ならこれにしようか、と思った。特別審査員として呼ばれた手前、画家の諸氏の首が捻る作品を推薦するのは回避したいと思っていた。





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