鎌倉物語
「ほう……面白い」
隣の画家が机の上に置かれていた『鎌倉海岸』を覗き込んだ。そして「どうしてそうお考えになったのだろうか」と私に聞いた。
「カモメがいるんですよ」
「カモメ?」
「右下の浜辺の所で家族が食事をしていますよね?その真向かいにカモメが二羽飛んでいる。本当なら家族の上にトビだ」
「……なるほど」
「多分、浜辺にぽつんと一組だけいる家族は作者の家族でしょう。それをこの海岸と共に描いたことに某かの強い思いを感じたのです。私はこの風景が好きです。風景が人を、作者を置き去りにしていない」
……私が推した絵は審査員特別賞という形をとった。その発言の後に創設された賞であった。