鎌倉物語
三節
私の記憶は完全に取り戻された。
しかし、問題はここからである。
ここにいる永里結子は、私を恩人だと述べているのだから
――と、
「じゃあ、私、帰ります!」
私の隣に腰を下ろしていた永里結子が、風に靡くスカートの裾を抑えながら、突然勢いよく立ち上がった。
「え!? あぁ…?」
「きっとまたここに来れば、四宮にさんに会えますわね?」
この数分間、思考を巡らせ「正解」を模索しつづけた私と、私と会った事で何かすっきりとした表情を見せる彼女。
「まぁ、この辺りは私の散歩道ですからね。いつかまた会う事もあると思いますが……」
対称的すぎるふたりに、時の流れの速度は違い過ぎたのか。
作家である以前に、一人の大人の立場からして、若い娘を家に帰すべき時刻を迎えていた。