鎌倉物語
 
 私は寄せる波に近付いていった。砂は人肌の色から黒に変わった。もう一つ進むと足元は安定し、まるで平地の様に感じられた。そのとき何故か、私はふと砂浜の方に戻りたくなった。

目の前には引いていく波が映し出されていた。さざめく波が耳に心地よく思っていると、大地がすっと広がっていった。鎌倉の水平線は、夕暮れの日を照り返し、淡い輝きを放ちながらその全身を揺らしていた。ふと我に返ったとき、私は押し返す波に身を濡らしていた。

秋の海は人肌には冷たく感じられた。






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