鎌倉物語
 

「うう、冷たっ」
私の戯れ言は、静かに波に飲み込まれた。

 沈む日の光が、海に一筋の光の道を作っている。
見る者全てを たちまち溶かしてしまいそうな夕暮れ。

“私”という痕跡を残す事なく目映ゆい海に還れるのであれば、こうしていつまでもそうしていたかったのだが、実際にそうはいかない。
日が沈んでしまえば、海と空の境が分からなくなる程、真っ暗闇となる。

浜に戻ろうと振り返ったとき、人の姿がそこにあった。

「四宮さん」

長めのスカートを揺らし、波打際に立つその人は、間違う事なく私の名を呼んだ。






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