鎌倉物語
二節
臨む水平線に海鳥が二羽飛び込んで来た。親子であろうか、体格の違う二羽が添うようにして、水面のすぐ上を飛んでいる。常態より荒ぶる波に、羽根をさらわれてはしまいかと、私は心配した。案の定その心配が現実のものとなったか、二羽の内、後ろを飛んでいた鳥が鳴き始めた。鳥はそのまま、海全体を振動させるかのような甲高い声で、数秒と鳴いた。さざ波の音と共鳴し合うそれは、筆舌に尽くし難いほど懐かしく、美しい音だった
私と女性は大平洋の声に思い耽った。
辺りも暗くなり江ノ島に灯が点ると、ずっと海を見つめていた女性が私の方を向いた。しばらくぶりの事だった。