オレンジ
「ラスト!」
ピッと笛を吹いて可愛らしい声で鈴が叫ぶと、部員たちはスピードを上げてトラックを走る。
木岡先輩を追いかけて入学した勇気があるくせに、非常に奥手な鈴は、木岡先輩にアプローチするわけでもなく(実際木岡先輩は鈴を覚えてはいたが、印象は薄かったらしい)、毎日を過ごしている。
しかし、素直で可愛らしい鈴は、バスケ部のメンバーからは可愛がられている。(藤代先輩だけは別だ。彼は女性に興味がない。)
羨ましいな、とたまに思う。
大好きな彼と高校が別になると知った時も、私は何も言わなかった。
頑張ってね、なんて強がりを言ったけど、ほんとは寂しかった。
鈴みたいに素直なら、もっと可愛いことが言えただろうに。
鈴は、一緒にいる人を幸せな気持ちにさせる。
でも、ベタベタしすぎない。そこがいいところだ。
鈴といるのは、自分にとってとても居心地がいい。
自分のことを多く語らないところや、一線を置いて人と付き合うところ。
鈴と私は、似た者同士なんだろう。
友達って悪くないな。
走り終えた部員にタオルを手渡しながら、そんなことを考えていた。