オレンジ
それぞれの理由
「さて、掃除終了。」
床を磨き終えた私は、エプロンを片手にキッチンに入る。
〆切前なんだ、と部屋にこもった宗輔さんに代わって、晩ごはんの支度をする。
平日は部活で遅くなるので、本格的な掃除と、料理は休みの日だけにしている。
ハンバーグのタネをこねくりまわしているところに、涼輔さんが入ってきた。
「ごめんね、何から何まで」
申し訳なさそうに言う涼輔さんに、いいえぇ、とにっこりする。
「…鈴ちゃんは、彼氏いる?」
冷蔵庫からペリエを出し、飲んでいた涼輔さんに唐突に言われ、手に持っていた塩の瓶を落としそうになる。
「いっ、いいいいえ!」
吃りながら答えると、
「ふぅむ。」
と、涼輔さんが私に近付く。
固まっていた私の目の前に立ったかと思うと、顔がだんだん近付いてきた。
キッ、これはキッ!?
キス!?
「やっぱり、違うなぁ…」
寸止めされた美顔が離れた時、息は止まりすっかりゆでダコの私は思考回路がショートしていた。
「なっ!?」
「ごめんね、気にしないで。」
にっこり笑った涼輔さんが、何事もなかったかのようにキッチンから出て行った。