オレンジ
「は~い…あれれ、どうしたの?怖いもんでも見た?」
――見た。
玄関のドアから姿を見せたのは、恐ろしく美形の男の人。
しかし、その顔から下は、ピンクのふりふりエプロン姿で、右手にはお玉を持っていた。
私の視線で察したのか、あぁこれかぁ、とにへらと笑うと、
「晩御飯作ってたんだよね。びっくりさせてごめんね?で、かわいこちゃんは何のご用かな?」
と、独身OLなら一発KOされてしまうであろう笑顔で、私に聞いた。
「いやあの…ここ、潮風荘さんですよね…?」
「あぁ、そうですよ?」
「私、桐島鈴と言います。入居を…」
「あぁ!!君がキリシマリンさん?待ってましたよ、さぁさぁ、どうぞ♪」
と、私を薬品の名前みたいなたどたどしい言い方で確認し、中へ促す。
何なんだ一体、と思いながらもとりあえずお邪魔することにした。
上品な女性とは?
この人の奥様だろうか…?
頭の中で?をぐるぐる回しながら、リビングに入る。