オレンジ

胸が痛い。


切ないような、悲しいような、ちぎれそうな気持ち。


キッチンで淹れたホットミルクが冷めていく。


――涙が止まらない。





「…何やってんだよ、こんな時間にんなとこで」


キッチンの明かりが付き、背後から急に声がして、肩がビクッとなる。



振り返ると、そこには洋輔さんが立っていた。



「…何泣いてんだ?」



目を見開いた後、眉間にしわを寄せながら洋輔さんが私に聞く。



またじわじわと涙が浮かぶ私を見て、更に眉間にしわを寄せ、困ったように頭を掻いている。



「…ど、うしようも、ないのに…」


蚊の鳴くような声しか出ない。


「こ、んな気持ちになった時は、…どうしたら、いいんでしょうか…」



何を言ってるのか自分でもわからない。



いつもなら、んなこと知るかよ、と答えるはずの洋輔さんが、テーブルを挟んで私の前に座った。



「泣きたいんなら、泣けばいいんじゃねぇの」



そう言ってそっぽを向いて座っている。



それから私が泣き止むまで、洋輔さんは一言も話さなかった。

でも、ずっとそこに座っていてくれた。



――この家の人達は、



涙のせいで熱くなった頭で考える。



誰よりも優しくて、でもその優しさのために、誰よりも傷付いてしまうんじゃないだろうか。



優しい笑顔で話す宗輔さん。いつも穏やかな涼輔さん。無愛想だけど不器用な優しさがある洋輔さん。明るくて元気な光輔くん。



なんて、いとおしいんだろう。



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