SKYBREEZE
その男は自らを小林と名乗った。
別に教えられたところで覚える気はさらさら無いし、そんなことならメンデルの生い立ちを記憶したい。
そんな風にあれこれ考えてから、ふと小林の方を見ると彼は大量のファイルを引っ張り出して抱えていた。
何の資料か、などと聞くまでもなかった。彼が勝手に切り出したからだ。
「これはね、君のお母さんの研究データだ」
「研究…?」
「そう、研究。生物学の研究だ。遺伝子とかの。判る?生物1」
判るも何も、今目の前の人物とメンデルを比べた所だった。
まぁ話すほどの価値が見い出せなかった為に黙って頷く事にしたのだが。
「君の母親は美しさを求めていたんだ。勿論細胞単位からのね」
「…細胞単位?」
テレビ等でもそうだが、研究者──Doctorの称号を得たような人だ──の話すことなど高校生にはミジンコ程の理解も難しいものなのだ。
因みに、話題…主に喩えが生物学関連なのは、ただタイムリーだからで、好きなのではない。
「そう。如何に美しいモノを生み出すか」
「美しい、モノ…」