キャンディ
イーサンは大きく深呼吸するようにタバコを吸うと、これまた大きく煙をはいた。

ケビンは相変わらず身動きできずにルイのそばでひざまずいている。

自分が少しでも動けばまたルイになにかされるのでは、と恐れていた。

そしてルイが受けた体の傷、心の傷が自分のことのように痛む。
守ってやれなかった。
それはまるで、その傷自体に意思があって、それぞれ口々に、「痛いっ」と叫びあうような錯覚に落ちるのだ。

ようやく目的のコンテナが地上へと下ろされ、二重の鉄の棒が差し込んである取っ手を上に引き、扉を開けた。

それはまさにパンドラの箱であった。

「開きました!」丸坊主の男が叫んだ。

注意深いイーサンらしくルイの傷のあるほうの肩を左手でつかみ、その瞬間歪んだ表情のルイを横目に「歩け」と命じた。

ルイはあられもない姿であったが、かろうじてスカートを引き上げ、下着をつけた。

そしてやぶかれたシャツを両手で押さえたまま、イーサンにつれられてコンテナの方へと歩き出した。

何度もよろめいたが、「しっかりしろっ」と言わんばかりのイーサンの太い指が、いちいちルイの肩の中にあるボルトを押した。

その度ルイは大きな声で叫びたかったが、声の無いルイにとって、それはままならなかった。
いっそ声がでれば幾ほど楽であったろう。

「ありました!」

コンテナの中の丸坊主の男が勢いよく叫んだ。

たいして興奮している風でもなかったイーサンが

「ふん、金の箱か。」

と覗き込んだ瞬間、またもや銃声が辺りを駆け巡った。

新たな赤い血しぶきがルイの顔を覆った。

そして辺りにはその静寂と反して、五、六人ものアジア人たちが知らぬ間にルイたちを囲んでいた。

ケビンには、もう何がなんだかわからなかった。

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