キャンディ
「俺はこいつらのやり方に反吐がでるね。」

それは若い青年のような声だが、凍りついたトーンの奥底に、その冷たい人間性が感じられる。

「すまないけど、そこら辺の死体かたしといて。」

そういってコンテナからルイと出てきたのは、あの丸坊主の男だった。

先ほどとは完全に違う人間のように思えた。

それにイーサンと違って紳士的にルイの手をとると、そっと自分の腕をもたせてケビンの方へ近づいてきた。

「すまなかったね、助けてやれなくて。俺にとっても死活問題だったからミスは許されなかったのさ。さぁ、みんなごくろうさま。ロスに帰るろう。」

そういうと、男たちが手際よくみつけた麻薬を車のトランクに乗せる。

「心配しないで。お前のファーザー(神父様)は殺さないよ。彼の口が堅いことを祈るけどね。それからあの小さな女の子によろしく。かわいかったなぁ、あの子。」眉ひとつ動かさずにそういうと、男はメルセデス-ベンツに乗り込もうとした。するとケビンが間髪いれずに叫んだ。

「あなた、麻薬で何人の人間が不幸になると思ってるんですか!僕の父も麻薬に殺されたんだっ!」

ルイがあわてて『なんてこというのっ!』と言った目でケビンを見た。

そして男が振り返ってケビンの方へ勢いよくやってきた。

その顔は、さっきの紳士的な若い優男の顔とは違い、怒りに一変した、迫力のある表情をしていた。

ケビンもルイも「本当に殺されるかも。」と肩を一瞬すくめたのだが、男はその怒りにこわばった表情を一瞬で極端にほぐし、その冷たく整った顔をにこりとさせると、

「紹介が遅れたが、俺はサシーのサム-シン-ヨンキ。俺は麻薬をやるやつが悪いといつも思ってる。やつ等は身を滅ぼし、家族を不幸にするという事実を知っていながら、俺たちからクスリを買うんだ。俺たちから買わなないとしても、どうしたってクスリのニオイをかぎ当てるんだ。やつらの末路は変わらないさ。、子どもの頃からそんなやつ等の犠牲になってきた俺たちが、そいつ等から小銭をもらって何が悪い。」

そう言い放つと、再び車に乗り込んだ。

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