キャンディ
この一年近く記憶を取り戻してからというもの、亮介のことを忘れたことは一日足りともなかった。

しかし、時間を経るごとにケビンに心が傾く自分に、良心の呵責が常について廻った。

そして日本でのそんなある日、亮介の母親から一言いわれた。

「るいちゃん、こうしてやっと生き残ったんや、亮介はあんたに幸せになって欲しいと思ってるに違いないきに。」

そういわれ、ルイもやっと決心がついた。

それは今までの自分と決別して、新たな人生を歩むという前向きなものだった。

そこにルイの強さがある。

彼女は今までだってずっとそうだった。

「明日死ぬかもしれない」、「もう生きていたくはない」、などというのは人間だけの感情である。

野生の動物は自らの明日を、自分の手で止めたりはしない。

頭をしっかりと上げて、凛とした眼(まなこ)で前を見据える。
この上なく野生的なこの女性は、人間には『生きる』と言う選択視しか残されていないことを、それこそ幼い頃からずっと知っていたのだ。

たとへ愛しい人を失っても尚、生きていかねばならぬことを。

― 大好きよ、亮介。ごめんね、守ってあげれなくて。ごめんね、一人だけ生き残って。でも私は、これからも生きていかなければならないの。

帰国から一年後のその冬、ルイはケビンのプロポーズを受けた。

「さくらだった君を心から愛している。そしてルイだった君を、その亮介という男性を愛していた君を、やはり僕は愛している。僕はルイだった君と一緒に亮介との思い出に生き、さくらであった君と将来を語り合っていきたい。」
< 65 / 66 >

この作品をシェア

pagetop