キャンディ
ちょうど飛行機がアリューシャン列島に差し掛かった頃、ヤンがリボンのかかったプレゼントの中身を空けると、赤い帽子とボンボンのついたマフラーをつけた古びた熊のぬいぐるみが出てきた。

そしてそのぬいぐるみをつかんで席を立ち、わざと天井のボックスのスーツケースを降ろし、亮介とルイの前でふらついて見せた。

その勢いでぬいぐるみがルイのひざの上に落ちた。

「すいません。足元がよろけてしまって。」

「いいえ。かわいいくまちゃんですね。」

ルイたちは新婚旅行とあって、『前途洋々、旅先での出会いはいつも新鮮だ。』。
または、日本人にはよくありがちな無防備極まりない様を、『だましてくださいね』とばかりこのヤンに存分にアピールしていた。

「これは娘のです。」

「私、熊のぬいぐるみ集めてるんですよ。だから…、これ、あぁ、ハロッズのティディベアですよね!」

そして、少し興奮気味のルイをたしなめるように亮介がいう。
でも実は亮介自信もルイとは変わらないほど興奮していた。

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