僕はその手をそっと握ることしかできなかった
二人で教室に戻った。

沢田副部長は珍しく、一人で自分の席に座っていた。

夕暮れに佇むあの人は、絵になっていて確かにカッコイイと思った。

空撫さんが好きになるのも分かる気がする。

彼女は容姿だけであの人を好きになったわけではないだろうけど。

ボクは教室の外で彼女を見守った。

「あのさ、今度コンクールでるんだ。ピアノの」

「ん・・・そうか。頑張れよ」

いつもと違う、覇気のない声が聞こえてきた。

副部長にしては珍しい。

「今度の日曜日、暇か?予定入ってるか?」

たどたどしい、空撫さんの問いに、副部長はどこか空返事を繰り返していた。

「なぁ、聞いてるか?」

「あぁ、予定はないよ」

「じゃあさ、聞きにきてよ。ガイアホールでやってるから、十時に会場で待ってるからな」

「あぁ。分かった」

空撫さんは嬉しそうにしてたけど、沢田副部長は空撫さんを通り越して、どこか遠くを見ていた。

それが気になった。

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