僕はその手をそっと握ることしかできなかった
空撫さんの演奏はすごかった。

ピアノの演奏ってこんなにも胸の奥を揺さぶり、魂を震わせるものだろうか。

演奏が終わった後の、スタンディングオーベーションってものを初めて見た。

全ての演奏が終わる前に、優勝者は決まっていた。

「空撫さん、すごかったです」

「ありがとう」

「ボク、感動しました。音楽なんて全然分からないんですけど、空撫さんの演奏がすごいってことは、分かりました。鳥肌が立ちました」

「大袈裟だよ」

空撫さんはすぐに、マスコミの人に囲まれて、それ以上話が出来なかった。

ボクは少しだけ彼女を見守ってから家路に着いた。
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