僕はその手をそっと握ることしかできなかった
「おはよー」

空撫さんは帰って来ても、誰にもフランスに行っていたことを言わなかった。

今まで通り、沢田副部長と美朝さんの三人で、一緒に登校してきた。

「椎名君、これ」

空撫さんはこっそりボクにお土産をくれた。

「マカロンだよ。おいしいよ」

「ありがとうございます」

ボクはそれをそっと机の中に入れた。

空撫さんは自分の席に着くと、うつ伏せになってしまった。

疲れているのだろう。

時差ボケかもしれない。

ボクは空撫さんをそっとしておいて欲しいと、願った。

多分、これから彼女には辛い宣告が伝えられるのだろうから。

それに耐えられる、体力を取り戻さなくてはならない。

けど、人生とはかなり残酷なんだ。

「カナちゃん、カナちゃん」

美朝さんが、空撫さんの肩を揺らして起そうとしている。

後には沢田さんもいた。

止めてくれ、空撫さんを傷つけないくれ

「ん」

空撫さんはゆっくりと身体を起こして二人をみた。

「どうしたの?なんかよう?」

眠そうに目を擦り二人を見つめた目はどこか虚ろだった。

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