僕はその手をそっと握ることしかできなかった
「あのね、カナちゃん。私たち、付き合うことになったの」

ボクは空撫さんを見つめた。空撫さんはそっと笑みを浮かべた。

「おめでとう。二人ともまどろっこしいから心配したよ」

先々週の日曜日に翔真くんに告白されたの」

先々週の日曜日。ピアノコンサートだった日だ。

ボクは空撫さんから視線を外して、沢田副部長を見た。

彼はじっと空撫さんを見えていた。

その視線の意味を悟ることは出来なかった。

「良かったね。美朝、おめでとう」

「ありがとう。それでね、これからも一緒に登下校したいの。今日みたいに」

「美朝にとってもオレにとっても、お前は大切な幼馴染だからな」

沢田副部長はそれだけを言った。

副部長はずるい

恋人を手に入れただけでは飽き足らず、幼馴染も傍に居て欲しいと思ってる。

「良いよ。別に、家近いし、翔真と同じ部活だし、一緒に行くしかないんだから」

「そうだね。カナちゃんありがとう」

「じゃあ、もう寝るね」

空撫さんはそう言うとまたうつ伏せの体勢になった。

二人が離れてから、空撫さんの肩は震えているように見えた。

きっと泣いてる。声も出さずに。

空撫さんは午前中だけの授業を受けると、両親が迎えに来たらしくそのまま早退しまった。
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