僕はその手をそっと握ることしかできなかった
ドアを開けようとしたとき、副部長の声が聞こえた。

「空撫、最近おかしいぞ。ボーっとしてるかと思えばテンション高くなったり、メシもろくに食ってねぇし」

驚いた。ボクだけが気付いていると思ってたのに。

恋人に現を抜かしているかと思えば、ボクが思っている以上に副部長は空撫さんのことを見ていたらしい。

「別に何でもないし」

「何でもなくねぇよ。オレに出来ることがあったら何でもしてやる。だから話せよ!悩みとかあるんだろ」

いつも空撫さんに厳しい副部長の声が優しさを含んでいる。

本当に空撫さんを心配しているんだ。

「お前が元気ないと、美朝も元気がなくなる」

「そりゃあ嬉しいなぁ。何でもしてくれるんだぁ」

ドア越しでも分かる。空撫さんの声が低く冷めたものに聞こえた。

副部長は、空撫さんの地雷を踏んでしまった。

美朝さんのためという、それだけの気持ちが空撫さんを深く傷つけるということを副部長は知らない。

「じゃあ、ヤろうよ」

「は?」

「だから、ヤろうって言ってんの。ベッドあるし」

「お前!何言ってんだよ」

「男なら分かれよ!エッチしようって言ってんの!何でもしてくれるんでしょ」
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