僕はその手をそっと握ることしかできなかった
HRの時間。

担任が空撫さんを前に呼んだ。

「本日付で、望月が留学することになった。卒業資格は与えられるが、みんなと一緒に勉強するのは、今日で最後だ。望月に言いたいことがある奴、今日のうちに言っとけ」

「今までお世話になりました。告白、決闘何でも受け付けます」

クラス全員が呆気に取られた。

一番、驚いているのが、副部長と美朝さんだろう。

ずっと一緒にいたのに、何も伝えられなかったことはショックだったはずだ。

「一時間目は、望月のピアノを聞かせてもらえることになった。音楽室に移動しろ」

みんな、担任の指示で、教室を出て行く。

「空撫」

教室を出ようとする空撫さんを副部長が止めた。

「またぁ?何の御用?」

「空撫ちゃん、どこ行っちゃうの」

美朝さんが聞くと、空撫さんは音楽室がある方向を指差した。

「先生、言ってたでしょ。ピアノ聞かせてもらうって。フランスの音楽学校に留学するの。おじいちゃんの母校」

「カナちゃん、ピアノを」

「お前、辞めたんじゃなかったのか」

「やっぱり気付いてなかったみたいだね。ずっと続けてたよ。毎日、弾いてたのピアノ」

空撫さんは少し淋しげな声を出した。

「十八才になるまでに、決めろって言われてた。ピアノか剣道か」


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