グリンダムの王族
適当な騎士を相手に剣を振るいながら、セシルはグリンダムとファラントの騎士の力の差を痛感していた。

最初は遠慮がちだった騎士もやがてセシル相手に本気になって向かってくるようになったが、それでも彼女の相手としては力不足だった。

周りで見ている騎士達が動きを止めて王子妃を見ている。
全員が呆然としていた。

セシルは動きを止めると、周りを見回した。

「見てないで動きなさいよ」

王子妃の言葉に全員が慌てて稽古を再開する。
セシルはふぅっとため息をついた。



その日王子夫婦は貴族の晩餐会に招待されていた。

2人一緒に馬車で城を出る。
セシルが騎士に誘導されながら馬車に乗り込むと、そこにはすでにクリスが乗っていた。

セシルの顔を見て目を背ける。
相変わらずの反応だった。
やれやれと思いながら彼の隣に座ると、馬車の扉は騎士の手によって閉じられた。

馬車が動き出し、そこは2人きりの空間となった。

けれども相変わらずクリスはセシルを見ようとはしない。
セシルが居るのと反対側に顔を向け、窓の外をじっと見ている。
でもおそらく窓の外になど興味はないに違いない。
セシルはさすがに腹が立ってきた。

ラルフのしたことで彼が怒っているというのは多少理解できたので今まで我慢してきたが、これが一生続くのかと思うと嫌になる。

不意にクリスが窓の外を見ながらあてつけがましく大きなため息をついた。

それでセシルの中の何かが、ぷっつり音を立てて切れた気がした。
< 144 / 265 >

この作品をシェア

pagetop