グリンダムの王族
結局カインに挨拶をすることもなく、セシルは逃げるように部屋に戻って来ていた。
久し振りに見たアランの姿に、動揺を抑え切れなかった。
とてもその場に居られなかった。
側に居るときには分からなかったさまざまな感情が彼女を包み、どうにもならない想いにただ苦しむ。
セシルは寝台にうつぶせに横になったまま、ただじっと自分の中に駆け巡る想いに耐えていた。
クリスの前で泣いてしまったあの日を思い出す。
よりによってあの王子の前で、、、。
自覚したのが遅すぎた。違う。
自覚しないように努めていた。
そんな努力を一瞬で壊された。
不意に人の足音が聞こえて、セシルは顔を上げた。
部屋に誰かが入ってきた。
驚いて振り返る。それと同時に足音の主が姿を現す。
そこに居たのはクリスだった。
クリスは何も言わずに、じっとセシルを見ている。
「、、、部屋に来るなんて、初めてじゃない」
セシルは呟いた。「何か用、、、?」
クリスは目を伏せた。
「自分の妃の部屋に来るのに、理由なんかいるわけ?」
意外な言葉にとっさに何も返せない。
セシルは黙ったままクリスを見ていた。
クリスがゆっくりと寝台に歩み寄る。
セシルは体を起こすと、寝台の上に座った。
近づいてくるクリスをぼんやりと眺めている。
「何しにきたの、、、?」
クリスは何も聞こえていないかのように黙ったまま寝台に乗った。
そしてセシルに手を伸ばす。セシルは思わず体を退いた。
そんな彼女の体を抱きしめて、クリスはセシルにかぶさるようにして寝台に倒れこんだ。
「クリス、、、!」
自分に覆いかぶさったクリスに、セシルは咎めるように声を上げた。
クリスが顔を上げてセシルを見る。
「なんか問題ある?」
クリスが聞いた。意外な問いかけにまた固まる。
至近距離で自分を見つめるライトブラウンの瞳に、表情はなかった。