グリンダムの王族
初めての夜
「、、、ちょっと、クリス!ねぇ、ちょっと!」
自分を抱き締めたままなかなか離さないクリスの胸を押し、セシルはなんとか彼を引き剥がした。
明らかに不満気なクリスの目がセシルを見ている。
未練たっぷりな様子の彼に、セシルは「晩餐会の途中でしょ?戻らないと!」と言うと、逃げるようにその場を離れた。
晩餐会に戻った後も、クリスはじっとセシルを見ている。
セシルはその視線に居心地の悪さを感じつつ、
―――なによ、この唐突な変化は???
と思っていた。
クリスの頭の中は、全く理解不能だった。
帰りの馬車の中で2人きりになると、クリスは待っていたかのようにセシルに迫ってきた。
急激に間合いを詰められる。
セシルは体を退いたが、しょせん馬車の中である。
壁に追い詰められるのは一瞬だった。
「セシル、、、」
囁きながら顔を寄せる。
「待って。待ちなさい!」
セシルは慌ててクリスの両肩を押して、その体を離した。
「クリス、あなたおかしいわよ??
なんか悪いもの食べたでしょ?
熱でもあるんじゃないの??」
「なんでそうなるんだよ。
セシルは俺の妃なんだから、いいじゃん」
―――自分の妃とは認めないってゆってたくせに!!
過去はきれいに忘れ去る気らしい。
「、、、あとで部屋に行くから」
じっとセシルの瞳を見つめてクリスが囁く。
「えぇ!!」
セシルはまたすっとんきょうな声をあげた。「もう今日は遅いわよ!」
晩餐会があったので当然もう時間は遅い。
ただでさえ疲れてるのに、なぜそんな拷問を受けなくてはならないのか。