グリンダムの王族
ファラントに帰国した後、クリスはセシルの部屋に全く来なくなった。

日中も、あれだけしつこく追い回してたのが嘘のように寄ってこない。
たまに遠くから見ているけれど、近づいてくることはしない。
結婚当初のように接点の無い日々に戻っていた。

セシルはクリスの突然の変化に戸惑いつつ、それでも少しほっとしていた。

そんな状態がしばらく続いたある日、セシルは日課である剣の稽古に励んでいた。

ふと気付くと、外に面した廊下の柱に寄りかかるようにして、クリスがじっとこっちを見ている。

近寄るでもなくただ見ているだけの王子の存在は、他の騎士達を緊張させた。
特にセシルの相手をする者は、それだけで王子の不興を買うのではないかと気が気じゃない様子だった。

それでもクリスが立ち去る様子は無い。

セシルは「なんなのよ、もう、、、」と呟くと、稽古の手を止めてクリスのもとへ向かった。

クリスは自分に近寄ってくるセシルに、少し驚いたような顔をした。

「何か用?」

クリスの側まで来ると、セシルはそう聞いた。
クリスはセシルの顔を少しの間見ていたが、首を振った。
セシルは困ったように顔をしかめた。

「クリスがじっと見てると皆が落ち着かないんだけど」

クリスはその言葉に固まった。

そして目を伏せると、「見てるだけでもダメなわけ?」と小さな声で呟いた。

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