グリンダムの王族
セシルはその頃馬の準備をしていた。
当然カイン達と一緒についていくためである。
その後ろでクリスが、「セシル、お前はファラントで待ってろよ!」と訴えていた。
セシルは手を止めると、振り返った。
「無理よ。
兄弟達が行ってるんだから、私も行くわよ」
クリスは困ったように顔をしかめる。
「俺が行ってくるから、、、」
言いながら、クリスはセシルの腕を掴んだ。
そしてその体を自分の方に向かせる。
「頼むから待ってて」
セシルがじっとクリスを見る。
彼の表情も緊張で強張っている。
怖くないはずはない。
それでもセシルの身の安全を優先している。
その事実は、素直に嬉しかった。
それでもやはりただ待っているだけなのは落ち着かないのだけれど。
「危険なことしない。
見届けたいだけなの」
セシルは穏やかにそう言うと、そっとクリスの肩に額をつけて寄り添った。
クリスはそんなセシルの意外な行動に、目を丸くして固まる。
「連れて行って、、、お願い」
耳元で聞こえるセシルの声にクリスは言葉を失った。
「、、、ね?」
セシルの囁く声に誘われるように、クリスは思わず「、、、分かったよ、、、」と応えた。
クリスの言葉にセシルがパッと顔をあげる。
「ありがとうクリス!」
セシルは笑顔でそう言うと、また馬に向き直った。
クリスはセシルを抱きしめようかと両腕を上げたまま固まっている。
そして慌しく作業を続ける妃の背中をしばらく呆然と見ていたが、やがて不満気に顔をしかめると、
「、、、汚いぞ」
と小さく呟いた。