グリンダムの王族
リズは懇願した。自分の身に起きようとしていることが分かり、ただ怖くて仕方が無い。

カインはリズを抱きしめたまま、何かを考えるように動きを止めた。
リズの体の震えが、彼の手に伝わっているはずだった。

俯くリズの顔を覗き込むようにして見ようとする。
リズが逃げるように固く目を閉じたと同時に、彼が苦笑したのが分かった。

「そんなに嫌?」

彼の言葉にリズは必死で、「嫌です」と声を振り絞った。

「あ、そう、、、」

カインは不満気にそう言った。

その声音から彼の機嫌を損ねてしまったのを感じる。
不安になって、リズは目を開けながら顔を上げた。
その目が自分の顔を覗き込む緑色の瞳と出会う。
カインがそれに気付いてふっと微笑んだ。

その目に怒りが無いことに一瞬安堵したが、次の瞬間カインの唇が素早くリズの唇に触れた。不意をつかれ、リズはとっさに目を閉じた。

唇はほんの一瞬触れただけだった。
唇が離れたのを感じながら、リズはしばらく固く目を閉じていた。
そして、やがておそるおそる目を開けて、王弟を見る。彼はリズを見て微笑んでいた。

「なんか、可愛いね、お前」

リズはその意外な言葉に固まった。
カインはリズの首の後ろに回した腕で彼女を抱き寄せると、再びその唇でリズの唇を塞いだ。

「んっ、、、!」

驚きのあまり声が漏れた。今度は目を閉じる余裕もない。口の中に割り入るようにしてカインの舌が侵入する。
産まれて始めてのその感触から逃げようととっさにカインの胸を押したが、彼はびくともしなかった。

―――嫌、、、嫌、、、怖い!!!

クリスとの初めての口付けとはまるで違う。
それはリズにとっては乱暴と等しく思えた。

抗い切れずに、寝台に倒される。唇が離れると、リズは慌てて「やめてくださいっ」と声をあげた。

リズの訴えにカインは、「分かってる、、、」と言いながら彼女の頬や耳にキスを落とした。
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