これが俺の体験


悲壮感は拭えない。
兄貴も悔し涙を流していた。

「兄貴……」

悲しい呟き。
母は泣きっぱなしだ。

顔を伏せ、
悲痛な叫びが
更に病院内部を重くする。

ボクは胸が痛かった。
優しいお兄ちゃん。
ボクが何をしても、
笑って許してくれた。


そんな……お兄ちゃんが死ぬなんて……


「正……」

母は何度か天井を見上げ、
何かを呟く。
祈るように、願うように。


ボクは……無力だ。



ボクは願う。
『力』が欲しいと。

誰も悲しませない、人を癒す力を。


「良……お前、悲しくないのか?」

兄貴はイラついたように聞いた。


「何で笑ってるんだよ!?」


違うよ。
ボクだって悲しいんだ。

だけど、
こんな悲しい気持ちは嫌だ!

ボクは笑わないと!
笑わないと、
お兄ちゃんの前で泣いちゃう。

そしたら……また悲しくなる。


だから笑うんだ。



「……ゴメン。悪かったよ」

それだけ言うと、
兄貴は沈痛な面持ちで
ロビーの椅子に座った。

ボクは気付かなかった。

ボクが泣いて笑っているなんて。
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