これが俺の体験
お兄ちゃんの病室。
ボクもそこにいた。
おっちゃんに言われたとは言え、
断る理由もなかった。
「久しぶりだな正」
お兄ちゃんは
呼吸器を取り付けられそこにいた。
涙をじわりと浮かべ、お兄ちゃんは頷く。
「いいか、よく聞け。今からお前を解放する」
お兄ちゃんは目を見開き、コクコク頷いた。
「じゃあいくぞ……」
おっちゃんは右手をお兄ちゃんにかざし、
静かに目を閉じた。
「はっ!」
おっちゃんが気合いを入れ、数秒後。
「よし外していいぞ」
お兄ちゃんは呼吸器を自ら外した。
先生達も驚きを隠せない。
ガンが進行して
呼吸器を外せないと言われたのだから。
「おじさん……すみません」
「謝るな。さてどんな感じだ?」
「やっぱり呼吸器がないと楽ですね」
「当たり前だな。良も来てるぞ」
ボクは笑顔で手を振る。
お兄ちゃんも
涙を浮かべつつ、笑顔で返してくれた。
「さて……ちょっと移動しようか?」
「いけません!倒れたばかりで動かすのは――」
「やかましい!黙ってみていろ!」
病室に響き渡るおっちゃんの声に
先生は口を閉ざした。
さすがに威圧感が違う。
誰よりも声に威力がある。
「立てるな?」
「あ、このくらいなら」
お兄ちゃんは普通に立ち上がり、
ベッドを降りた。
「よし行こう」
ボクとおっちゃんが先に歩く。
お兄ちゃんはスリッパを履くと、
そのままスタスタ歩き、先生達も慌てて
追いかけて来た。
なにやら仰天していたが
ボクは知らないフリした。