これが俺の体験
過去の傷
当時、14歳から遡り、
小学校3年生。
俺が7歳の時だ。
まだ『俺』を使わず、
『ボク』を使っていた。
一番上の兄貴が自衛隊に入り、
将来有望と言われた時、
兄貴は大きな絶望を味わった。
訓練していた兄、『正』は
突然、意識を失い、
病院に連れて行かれた。
もちろん、その報告は
真っ先に家族に知らされた。
そして家族、親類に知らされたのは
あまりに残酷なものだった。
「先生、正はなんて
病気なんですか?」
この時、家族は覚悟していた。
今でも、
この時だけは覚えている。
暗い先生の顔色を。
「お母さん……正君は……」
先生が一度区切り、カルテを見る。
数秒、見た後、重々しく告げた。
「『大腸癌』です……」
瞬間、母は虚ろな目で
先生を見て、手を伸ばした。
「嘘……嘘ですよね!?
正が……正が『ガン』なんてっ!!?」
先生は苦しそうに首を振った。
「余命は……1年もないでしょう。残念ですが、手術も出来ません」
……誰も
何も
言えなくなった……。