ー親愛―




目の奥には あの刺青が焼き付いている




ほんの一瞬だけど 確かに頭にこびりついて 剥れない




十字架を背負ったキリスト




まるでアメリカのバイクに乗る いかついおっちゃんが羽織る革ジャンみたいな絵




革ジャンなら 色彩があるだろうけど…




あの刺青には それがない




かえって そこが渋い



もう私の頭の中には 今日の夕飯のメニューよりも これから働く会社の事よりも その刺青の事でいっぱいだった




交差点の赤信号も 危うく 無視してしまいそうになるほど…




ふーっ




大きく深呼吸する




ふと バックミラーを見ると




さっきの刺青男の車




………?!




ま、まさか追いかけて来たワケじゃあないよね…?




…まさか…?




…そのまさか だった




私は試しに 家とは正反対の道を曲がった




同じように 曲がる




まぁ…1度や2度ぐらいなら たまたまって事もあるだろう




それが 6回ともなると…




ましてや 同じ所をグルグル回ってるんだから




や、ややややっぱり追いかけられてる




なんだか 恐い人にでも追いかけられてるぐらい 身の危険を感じた




私 もしかして 殺られるの?




そんな過剰な考え方をさておき とりあえず早く逃げなきゃと、スピードをあげてグルグルと同じ所を何度も走った




同じ道 同じ建物




同じように 庭の手入れをしているおばちゃん




何度も見るもんだから 不思議そうな顔で私を見る




なのに…




なのに…




刺青男はスピードを下げる事もせずに 同じ早さで 同じ車間距離でついてくる





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