ー親愛―
壁を蹴っただけでは もの足りない この私の気持ち
階段をガツガツ降りて行くと 同じ学科の沙耶《さや》が話しかけてきた
“八重《やえ》…?どしたん?えらい剣幕で。アンタがそんなに顔色変えてるの見るのは、初めてやわ”
少し京都っぽい訛りのある沙耶の言い方が、この時だけは おかしくて仕方なかった
“プッ… フフ”
おかし過ぎて笑ってしまう
“なんやの…?感じ悪いなぁ”
“ごめんごめん。沙耶のその話し方が、今の私にはたまんなく、最高だったんだ。”
“なんやの?…もう”
そう言って 口を尖らせて、頬を膨らませる沙耶が愛しかった
“…ありがとう…”
“どしたん?…今日の八重は変やなあ…”
“いっつも 変じゃん”と返したかった所だけど…沙耶のおかげで なんとなくスッキリした私は “じゃあ…帰るわ”と言って 後ろ手に手を振った