ー親愛―




それから4日後 病院を退院した




毎日のように大和が顔を出しては ホームの利用者の話をして、聞かせてくれた




退院の日も大和が迎えに来てくれた。

家に帰ると 何も変わらない部屋が私達を迎えてくれた



“まずは赤ちゃんの布団を…"


押し入れの中から赤ちゃんが寝る為の布団を探す



“これって…"


押し入れの中には シンが旅立つ時に、一緒に開けようとくれたプレゼントが残されていた



布団を出す事さえ忘れて紙袋を取り出し、その場で開ける



“なんで…"



慣れない手付きで赤ちゃんを抱いている大和が不思議そうに近付いてくる


“どした?"



“これ…"



紙袋の中には 男の子でも女の子でも履ける黄色の、小さな柔らかい生地で出来た靴とメモが入っていた



メモには 《男でも女でもどちらでもイイ。元気な子をたのむ。名前は未来がイイ。》って書かれてあった



“ひどいよ…。もう、泣かないって誓ったのに…。強くなるって誓ったのに…。こんなのひどいよ。シン…"


もう耐えきれない


強くなんかなれない




なりたくない



いつまでも シンの存在を引きずっていたいよ


ずっとシンと共に歩んで生きたいよ



“シン。帰って来て!"



涙が次々にポロポロとこぼれて シンの書いた字が私の涙で滲んでゆく 前がうまく見えない








…その時だった



“いつもそばにいる。八重のそばに"



そうシンが囁いたんだ



泣きじゃくる私に シンが頭をポンポンって叩いて そう囁いたんだ



“もう…もう、泣かないよ"



さっきまで 自分では歯止めが利かない涙は ピタリと止まり 服の裾で涙を拭いて 大和の腕の中の赤ちゃん‐未来を抱きしめた



大和は とりあえず押し入れから適当に布団を出しくれて 思いもよらない言葉を口に出したんだ


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